台湾台東に関わって40数年、その間に経験した楽しかったこと面白かったことびっくりしたことなど、現地の状況や日本との比較なども含めて紹介したいと思います。
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原住民と檳榔(ビンロウ、Areca catechu2007年6月

・檳榔とは? 
 檳榔(ピンナン)はアミ語では「イツップ」と言う。マレー地方原産の椰子科の常緑高木で、高さ10m位になる。卵形の未熟の果実を二つ割りにして、その中に石灰(昔は貝殻を熱して粉にしたもの、生石灰 CaO 酸化カルシウム)とキンマの実または葉(時には根っこを刻んだもの)を入れて、そのままガムのように噛む。中国語では檳榔を噛むことを「吃檳榔」食べるというが、アミ語では「ミイツップ」と言う。「ミ」は動詞化する時に付ける接頭語であるから、「檳榔する」ということである。

 暫く噛んでいると、唾液が真っ赤に染まってくる。これは檳榔の種子の中にあるアルカロイド成分(注1)と石灰との反応によるものであるから、石灰を入れない場合は真っ赤にはならない。最初に噛んだ濃い色の唾は、吐き捨てるのが一般的であるが、中には吐かない人もいる。その後は噛みながら唾と一緒に、噛み汁を呑み込む。暫くして、味が薄くなった繊維状のカスも、やはり捨てる。昔は台湾の道路上の至る所に、この吐き捨てた赤い唾の跡と繊維状の檳榔のカスが見られたものだが、最近は法律で禁止されているためか少なくなった。

この檳榔を噛むと、軽い興奮や酩酊感、覚醒作用がおこる。しかしその程度は、檳榔の品種や木によっても一定ではなく、私達のような初心者が噛んだ場合、ひどい時にはふらついて立っていられなくなることもある。私は実際にこのような強い檳榔を2回ほど経験したことがあったが、本当にその場に座り込んでさらに寝ころんでしまった。2回とも、北源産の檳榔であった。
 特にお酒と一緒に噛むと効果が倍増する。お腹の底からじわーっと熱くなってくるのが感じられる。これが結構気持ちが良い。

・キンマ 
 キンマのことを、彼等はカツラ(アミ語ではビィラ)と言っているが、本来のカツラとは全く違う。コショウ科の蔓性常緑多年草植物であるキンマ(Piper betle) という植物である。キンマもやはり薬効成分があり、健胃薬、去痰薬、鎮痛薬などに使われる地方もあるようだ。キンマの葉で檳榔を包むこともある。
 実は、このキンマは南方の植物で、日本とはあまり関わりがないと思うかも知れないが、キンマの葉を入れる漆塗りの壺が、日本の茶人の香入れとして愛用されたのをきっかけに、
特に日本の讃岐で作られるようになり、讃岐キンマとしてその道の人には有名である。
 
・すり減る歯
 冬期の端境期には、あらかじめ茹で上げた檳榔を乾燥させた乾燥檳榔を噛むが、私のような素人にはどうもかみ切れない。この乾燥檳榔を噛んで、虫歯の何本かを砕いてしまった。それ以降はほとんど檳榔を噛むこともなくなった。
 それでなくとも、檳榔を噛むと歯のホウロウ質がすり減ってしまうのに、この乾燥檳榔はもっと威力がありそうだ。檳榔を常用してる人の歯並びを見ると、上下とも綺麗に真っ平らである。ホウロウ質が薄くなったり無くなってしまうので、彼等は果物や酸っぱいものは大の苦手である。

 あまり檳榔を噛む習慣がない女性、特に都会の台湾人や外省人に嫁いだ女性が田舎に戻った時などは、檳榔を割って中の果肉を捨てて固い繊維質の皮の部分だけを噛むことがある。これだと本当にガムの代わりになり、覚醒作用もない。しかし、ただ青臭いだけで美味しくはない。
 田舎の村では、小学生でも檳榔を噛む子供がいる。檳榔の実(ビンロウジ)、キンマ、石灰の3点セットの入ったカゴが、宴席や井戸端会議では行ったり来たりする。大人達はそのカゴを子供に持って来いと命令したりする。その大人の目を盗んでは、次第に子供達も噛む習慣を覚えていくのだ。
 
・檳榔の役割 
 台湾の原住民にとって檳榔を噛むことは、マレー地方の先住民と同様に古くから伝わる習慣である。しかし、この檳榔は彼等の祭礼や祝いの時にも欠かせないものとなる。
一度ピュマ族の建和部落(台東市内から旧道で知本に行く途中)の豊年祭に参加したことがある。その時に祭事を見たことがあるが、礼服を身に纏った長老が最初に木製の壺に檳榔を入れることから始まった。
 あるいは、結婚式の最後に新郎新婦がお客を送り出す時に、タバコや檳榔やキャンディーをあげることもある。檳榔はそれだけ彼等の生活に必要不可欠なものなのである。

 この檳榔は、かなり前から台湾人も多く愛用している。
 特に、遠距離走行をするトラックの運転手やタクシーの運転手は、覚醒作用のある檳榔を眠気覚ましのために好んで噛む。そのために特に都会の高速道路や国道の至る所で檳榔を売る屋台が多くできて、中にはガラス張りの小さな小屋に若い娘がシースルーのミニスカートで客を引き寄せて売ると言うことも起きている。彼女たちは、檳榔辣妹(ラーメイ)(刺激的な娘?)とか檳榔西施(シースー)(注2)と言う。時々警察が、手入れをしているほどである。
中には、檳榔中毒になってしまい、檳榔を噛まないと車が運転できないという者まで出てくる始末で、仕事のために檳榔を噛むのか、檳榔を買うために仕方なく仕事をしているのか分からないような人もいる。
 
・檳榔売り 
 檳榔と言っても色々あって、台北などの都会で売られているものは「白肉檳榔」などという、かなり品の良いしかも味も(渋みが無く甘い)良く値段も高いものである。地方では、本来の檳榔が売られており、味もまちまちである。時々、噛むとふらついてしまうほどの檳榔もある。
檳榔はビニールの袋に入っていて、普通は一袋50元と決まっている。相場があって、時期によって高くなったり安くなったりするが、それは袋の中の檳榔の数で調節する。安い時には25個も入っていることがあるが、端境期には15個もないこともある。
檳榔屋台は、ガラスケース付きの専用の屋台で、一緒にタバコも売る。
私の知り合いのオバサンが檳榔を売っていたことがあり、その時檳榔を作って売る手伝いをしたことがあった。勿論無償のボランティアであった。檳榔とキンマの葉を問屋から仕入れてきて、よく洗って檳榔の実の両端を少し切り揃える。キンマの葉に石灰を少し塗り、四つ折りにして、人差し指に巻き付けて輪を作って端を中に差し込みほぐれないように止める。その輪の中に、檳榔を差し込むのである。
 簡単なようだが、慣れるまでには結構時間がかかる。私の場合は、1週間くらいで自信がついた。
 
・檳榔の用途
 檳榔樹は、檳榔を収穫するだけでなく、色々な用途に使える。幹は細いが真っ直ぐで長く、台風にも耐えられて折れにくいから、物置小屋などを作る時の柱や梁にもなる。台東は特に台風が多いが、海岸線の国道の街路樹が根本から逆さまになって倒れていても、檳榔樹が倒れたり折れたりしたのは見たことがない。  
 さらに、檳榔樹の新芽の芯(中国語では半天筍)は、なかなか美味しい。名前のごとく、台湾では筍の味がすると言う。南米でもこの芯を食べる習慣があり、缶詰や瓶詰めで売っていて、ほとんどの場合はマヨネーズを付けてサラダで食べる。ちょっと酸味のあるホワイト・アスパラガスのような味である。スペイン語では「パミルト」と言う。
 アミ族は、簡単にスープで食べる。

・癌と檳榔
 今、檳榔を噛む人の中に咽頭癌、口内癌や舌癌になる人が増えて、社会問題となっている。国際癌研究機関(IARC)では、発ガン性を認めている。
 私の友人のL氏は、アミ族であるにもかかわらず(失礼な言い方かも知れないが)医者である。もう衛生所の所長を退職された年であるから、その年の人が医者になるということは、その当時としては大変なこと、凄いことであった。
彼はよく私に、アミ族にいくら言っても、檳榔を噛む習慣がおさまらなくて困っていると言うことを話していた。最近特に癌の患者が多くなったとも言っていた。

(注1)アルカロイド
 窒素原子を含み、塩基性を示す有機化合物の総称で、コーヒーやお茶、カカオなどに含まれるカフェイン(caffeine、コーヒーから取った名前)もアルカロイドの仲間であり、軽い覚醒作用や解熱鎮痛作用、利尿作用がある。植物毒の多くはアルカロイドであり、ジャガイモの芽に含まれるソラニン、タバコに含まれるニコチン、ハシリドコロに含まれるスコポラミンなどもこのアルカロイドである。アルカロイドは薬になるものも多く、スコポラミンは乗り物酔い止めの薬に使われ、モルヒネはご承知のように強烈な鎮痛効果で知られる。第2次世界大戦の時に、南方ではマラリアにかなり難儀したが、キナの皮に含まれるキニーネはその時の特効薬として重宝がられた。
ここでの檳榔の実に含まれるアルカロイドは、アレコリン(arecoline) という名前で、
ニコチンと同様の作用を持っていると言われている。石灰を混ぜるのは、このアレコリンの抽出効果を上げるためである。

(注2)西施(せいし)(西子とも言う)
古代中国の有名な四大美女の一人。
春秋時代末期、本人承知の策略結婚で呉王に嫁ぎ、その美貌で呉王を骨好きにして呉国を弱体化させ、その後、越が呉を滅ぼすと言う話は有名である。
その他三人の美女は、楊貴妃(唐)、王昭君(前漢)、貂蝉(ちょうせん) (後漢)
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[2011/11/10 01:07] | 台湾原住民
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